相続についてはトラブルも多く、亡くなられた方のお気持ちとは異なり、遺されたご家族がバラバラになってしまうケースも見てまいりました。
愛する家族がお亡くなりになられても、葬儀の手続きなどで悲しむ余裕がないくらい多忙になりますね。それが一段落すると、今度は相続の手続きが始まります。
ご遺族様のトラブルを最小限にするための第一歩として、遺言書と法定相続人についてお伝えしていきます。
目次
[1.まずは遺言書の有無を確認]
相続のスタートは、まず遺言書を探す事からです。不慮の事故や突然の病気でお亡くなりになられた場合であっても、元気な時に遺言を書かれている方もいらっしゃいます。
まず、家の中を徹底的に探すだけでなく、公証役場あるいは法務局にも当たる必要があるかもしれません。
<1−1 遺言書がある場合>
遺言書が見つかった場合は、どのように保管されていたかによって、その後やるべき手続きが異なります。
(1−1−a 自宅にあったか誰かが保管していた遺言)
自宅で発見された遺言、信頼のおける第三者(遺言執行者など)が保管していた遺言は、家庭裁判所で検認という手続きを取らなければなりません。手続には約1ヶ月かかります。遺言書を発見しても、ご遺族の方が勝手に開封することはできません。過料を取られる事があります。
お亡くなりになられた方が本文を手書きされた自筆証書遺言と、お亡くなりになられた方が作成した遺言書に、ご本人と公証人、証人の署名押印した秘密証書遺言がこの手続きの対象です。
(1−1−b 公正証書遺言)
公証人という法律のプロ(元裁判官や検察官など)が、お亡くなりになられた方の意思を確認して作成した遺言書の事です。
検認手続きは必要ありません。
公証役場はネットワーク化されています。遺言をされた方がお亡くなりになってからは、相続人や遺言執行者といった利害関係者が、自身の最寄りの公証役場を通じて遺言の有無を検索する事ができます。この検索のためには次の書類が必要になります。
利害関係者本人が問い合わせに行く場合
・遺言者の死亡を証明する書類 → 死亡診断書など
・利害関係を証明する書類 → 相続人であれば戸籍謄本など
・請求人の身分を証明する書類 → 印鑑証明書と実印あるいは免許証、パスポートなど顔写真付きの証明書と印鑑
利害関係者の代理人が問い合わせに行く場合
上の書類にプラスして
・委任状 → 委任状には利害関係者の実印を押し、請求人の身分を証明する書類としては印鑑証明書を用います。
・代理人の本人確認資料 → 免許証など顔写真付きの証明書
検索で公証役場に遺言が保管されている事がわかれば、利害関係者はその公証役場に行って遺言書の謄本を交付してもらえます。
(1−1−c 法務局で保管していた遺言)
令和2年7月10日に自筆証書遺言を法務局で保管する制度が始まりました。遺言をされた方がお亡くなりになってからは、相続人や遺言執行者といった利害関係者が保管されているかどうかを検索する事ができます。保管されている事が確認されれば、利害関係者は「遺言書情報証明書」という公的な写しを発行してもらう事ができます。
こちらも検認手続きは必要ありません。
<1−2 遺言書がない場合>
どんなに探しても遺言書が見つからない、という場合は相続人同士で遺産分割についての協議を行って、それぞれが何を相続するのかを決めます。
[2.相続人を確定します]
遺言書が見つかったら、次は相続人を確定する必要があります。煩雑な作業ですが、家庭裁判所での検認、その後の遺産分割に必要なものです。
<2−1 まずは故人の戸籍をつなげましょう>
まずは亡くなられた方の死亡が記載された戸籍謄本を準備して下さい。そこには本籍を変えた、結婚したなどの理由で、その前の戸籍から移ってきたという情報が書かれているかと思います。
その時は前の戸籍を管理する市町村に連絡して、前の戸籍を取り寄せて下さい。又、そこに別の市町村から移ってきたという情報があれば、その前の市町村にも連絡して・・・という方法で亡くなられた方の出生から死亡までの戸籍情報がつながっている状態を作って下さい。
<2−2 戸籍の中に知らない方はいませんか?>
ひとつながりにした戸籍を見て、その中にある名前と亡くなられた方との続柄を把握していきます。
特に養子縁組や離婚などをなされていた場合には関係者が複雑で、初めて名前を知るような方がいらっしゃるかも知れません。
戸籍を見て図を描きながら、名前と続柄を整理してみて下さい。その図に書かれた人の中に、法定相続人となる人達が含まれています。
<2−3 法律により自動的に相続人となる方達 − 法定相続人>
法定相続人とは、民法で相続対象者として定められている方です。検認手続きには戸籍から推定される法定相続人全員の戸籍謄本が必要となります。
(2−3−a 配偶者)
ご主人にとっては奥様。奥様にとってはご主人の事です。入籍することで、お互いに相続する権利を得ています。
(2−3−b 子)
出生届を出したり、養子縁組をされることで戸籍に載せることで、相続する権利を得ます。奥様が妊娠中のお子様にも、権利はあると考えられています。
離婚して再婚された時に、以前の配偶者の方が引き取られた方のお子様にも、相続権はあります。
法律上の婚姻関係がない女性との間にできた子供(非嫡出子)であっても、認知をされれば(認知子)相続の権利を得ます。
今の民法では、実子、養子、認知子は相続について、同じ権利を持っています。
(2−3−c 親)
お子様がいらっしゃらず、亡くなられた方の親御様がご存命の場合、相続人となります。
亡くなられた方が養子縁組されていた場合、養親だけでなく実際の親御様も相続人となります。
(2−3−d 兄弟)
お子様がいらっしゃらず、亡くなられた方の親御様が既にお亡くなりの場合、相続人となります。親御様が養子を迎えられていた場合も、亡くなられた方とは兄弟の関係になり相続人となります。
亡くなられた方が結婚される前に親御様がお亡くなりになっていると、養子の存在を知らされていない場合もあります。ご注意下さい。
[3.法定相続人はどのように相続するのか]
法定相続人は遺言で特に指定されていない場合、どのように財産を相続できるのでしょうか。
<3−1 相続の割合>
民法では、法定相続人が財産を受け取る割合が定められています。
(3−1−a 配偶者と子供)
配偶者とお子様達で1/2ずつ相続します。
お子様達が3人いらっしゃれば、一人あたりは1/2÷3=1/6ということになります。
前に書きましたように、実子、養子、認知子の相続する権利は同じです。
配偶者が先立たれている場合はお子様がすべて相続されます。
(3−1−b 配偶者と自分の親)
お子様がいらっしゃらず、亡くなられた方の親御様がご存命の場合は、配偶者が2/3、親御様が1/3の割合で相続します。
亡くなられた方に配偶者がいらっしゃらない場合は、親御様がすべて相続されます。
(3−1−c 配偶者と自分の兄弟)
お子様がいらっしゃらず、亡くなられた方の親御様も亡くなられておいでですが、ご兄弟がいらっしゃる場合、配偶者が3/4、ご兄弟全員で1/4の割合で相続します。
配偶者がいらっしゃらない場合は、ご兄弟がすべて相続されます。
亡くなられた方の親御様が養子縁組や認知をされておいでであれば、亡くなられた方との間に血のつながりはなくても、兄弟として相続の権利があります。
(3−2 お子様がお亡くなりの場合は代襲相続)
もし、亡くなられた方のお子様が先にこの世を去られ、その方のお子様がいらっしゃる場合、お孫さんはお子様の相続する権利を引き継ぎます。お子様、お孫さんがこの世を去られて、ひ孫がいらっしゃる場合、ひ孫さんに相続する権利が引き継がれます。
これは代襲相続として法律で定められています。
又、お子様がなく、親御様もご兄弟もお亡くなりになっているが、ご兄弟の子供(亡くなられた方からみて甥御さんや姪御さん)がいる場合、甥御さんや姪御さんもご兄弟の相続する権利を引き継ぎます。
ただし、甥御さんや姪御さんもお亡くなりになって、その子供たちだけという場合は相続はされないとされています。
(3−3 法定相続人の最低限の取り分)
法定相続人のうち配偶者、子、親には遺留分として、それぞれが相続する権利の1/2は最低限受け取れると法律で保証されています。
[4.遺言などで、相続が大きく変わる場合もあります]
遺言書の内容により、相続内容が大きく変わる場合もあります。
<4−1 遺言での認知、相続人廃除等>
遺言書によって、相続人が増減する場合があります。
(4−1−a 遺言で認知)
遺言書で婚外子を認知することができます。手続きは遺言執行者というお亡なりになられた方が定めた人が行います。この手続きにより認知された方には、実子と同じく相続する権利があります。
(4−1−b 遺言で相続人廃除)
相続人に非行があったとして、遺言書で相続人を廃除することができます。手続きは遺言執行者が家庭裁判所で行います。
<4−2 相続人が受け取る財産の額の変動>
(4−2−a 遺贈、寄付)
遺言書に第三者や団体への多額の遺贈、寄付する意思が書かれている場合もあります。
(4−2−b 多額の負債)
遺言書には財産目録が付けられていますが、それを見て初めて多額の負債がある事を知る場合もあります。
<4−3 法定相続人の相続放棄>
遺言書ではありませんが、相続人の方が相続放棄をされると相続人が変わる場合があります。例えば、配偶者と親御様が相続人の場合に、親御様が相続放棄をされる事により、亡くなられた方のご兄弟が相続人になられるような場合です。
[5.相続になる前にやっておけば良かったと言われること]
過去の事例から、相続になる前、お亡くなりになった方が元気な時にやっておけば良かったと思われることがあります。
<5−1 相続に関係するであろう人同士のコミュニケーション>
亡くなられた方、相続対象となる方が、普段からなるべくオープンに相続について話し合う機会を持たれるのが一番大切です。これにより、お互いの状況が分かっていれば、それを遺言書に反映してもらえる事も多いので、相続人が納得しやすくなります。
<5−2 相続財産の把握>
相続財産もこれまでの現預金、不動産といった把握が比較的容易なものだけではなくなってきました。
例えばインターネットを用いて海外の取引口座でFXをやられていた、仮想通貨をウォレットに保管していたなどの場合です。お亡くなりになった方が、口座の存在やパスワードなどの手がかりを遺されていなければ、例え多額の財産であっても、ご遺族は全く知ることができません。
又、事業のための借り入れなども、本人しか知らない場合が多いです。
こうした事も、いざという時には調べられるようにしてもらわないと大変面倒なことになります。
少なくとも、相続財産調べが終わるまでは大切な手掛かりとなりますので、お亡くなりになった方のスマホの解約はしない方が良いようです。
<5−3 専門家に相談する価値>
相続が始まってからでも、法律に詳しく公正な第三者として司法書士などの専門家を間に立てる事により、相続に関する煩雑な手続きの代行ができます。
又、相続による身内の方同士の余計なトラブルを最小限に押さえるためにも、相続に慣れた専門家が連絡・調整役として動く価値はあります。相続が原因で大事な親族関係にヒビが入らないよう、ご検討になられてはいかがでしょうか。