相続関係

素朴な疑問「遺言を変更・撤回したいときってどうしたらいいの?」

1.はじめに

皆様こんにちは! 今回は、遺言を作ったはいいけれど気が変わった場合にどうしたら良いのか、遺言は後から撤回や一部変更ができるものなのかについて説明していきたいと思います。

2.遺言の撤回・変更についての総則的な決まりについて

当ブログをご覧の皆さんは耳タコかもしれませんが、遺言は普通方式では3種類あります(自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言)。この3種類の遺言の種類にかかわらず、複数の遺言の有効性、撤回・変更における共通しているルールについてまずはご説明しましょう。

2.1.新旧、どちらも有効?

いきなりですが質問です。ある人が

 平成25年1月1日に作成した

 『私の全ての所有不動産をAに相続させる』という内容の遺言書と

 令和2年1月1日に作成した

 『私の全ての貯金をBに相続させる』という遺言書があります。

両方とも法律の要件を満たした遺言書だとします。さて、どちらの遺言が有効だと思いますか?

 答えは、両方とも有効です。

二つの遺言を比べても、矛盾する点はありませんね。このように遺言が複数あったとしても互いの内容に矛盾がなければ全て有効として取り扱われます。今回の例では、不動産はAに、貯金はBに相続させると遺言したと判断されるのです。


2.2.撤回はできる?

次に、遺言をした人が、以前の遺言の内容を撤回または変更したくなった場合、できるのでしょうか。民法によると、遺言者はいつでもその方式に従って遺言の全部または一部を撤回することができるとされています(民法1022条)。きちんと方式通りであればいつでも撤回(変更)できるのですね。

またここで質問です。

ある人が平成25年1月1日に作成した

 『全財産をAに相続させる』という遺言書と

 令和2年1月1日に作成した

 『全財産をBに相続させる』という遺言書があります。

両方とも法律の要件を満たした遺言書だとします。しかし先ほどとは異なり、遺言の内容が抵触(矛盾)していますね。さて、どちらの遺言が有効だと思いますか?

 答えは令和2年に作成した新しい方の遺言です。

遺言の3方式(自筆、公正証書、秘密証書)に優劣はなく、2つの遺言が抵触するつまり矛盾した内容の場合、新しい日付のもの(一番最近作られたもの)が有効であり、古い遺言の抵触(矛盾)部分については前の遺言を撤回したものとみなされるのです(民法1023条1項)。

遺言作成の際、3つの方式全てで、日付を書くことが要件になっているのは、一番新しい遺言を特定するためなのです。

また、前に作成した遺言と矛盾する生前処分が行われた場合(例えば遺言書で『不動産はAに相続させる』としていたのに、その後、Bにその不動産を生前贈与した場合など)にも、前の遺言は撤回されたとみなされます(民法1023条2項)。


2.3. さらに撤回の撤回もできる?

それでは、遺言の撤回をさらに撤回して、最初の遺言をした状態に戻せるでしょうか?

これは、できません。民法によると、一度撤回した遺言は原則として復活しないと定められています(民法1025条)。これは遺言の非復活主義と呼ばれています。なぜ復活できないのかというと、撤回の撤回の撤回の撤回・・・などと際限なく撤回がなされることを認めてしまうと、結局、遺言者の真意を知ることが複雑・困難になるからです。

 ただし例外として、最初の撤回の遺言が、詐欺もしくは強迫によりされた場合には、その撤回自体が遺言者の意思ではないと推察されることから、例外的に撤回の撤回も可能であるとされています(民法1025条但し書き)。

3.それぞれの遺言の方式と変更の方法について

それでは3つの遺言の方式の定義を確認したうえで、方式によりそれぞれどのような手続きで遺言の撤回・変更ができるのかをみていきましょう。

 

3.1.自筆証書遺言の撤回について

まず、自筆証書遺言の撤回についてです。

自筆証書遺言とは、財産目録を除く全文を、自筆で書いた遺言書のこと(民法第968条)で、日付の記入を必ず行うこと、最後に署名捺印を行うことで完成する遺言でしたね。

以前当ブログで説明した『自筆証書遺言保管制度』を利用していない場合は、遺言書自体を自身で手元に保管していることと思います。そうなると、全部を撤回したい場合はその遺言書を破棄(破り捨てて)してしまえば遺言書自体がなくなりますので、全部を撤回したことになりますね(民法1024条)。

次に、一部変更をしたい場合ですが、変更の部分が少し(軽微)の場合は自筆証書遺言ならば直接、前の遺言を訂正する形で遺言の文章を変更することができます(民法968条2項)。

訂正の方法ですが、遺言の中で変更をしたい点を示したうえで変更内容と変更をした旨を記載し、署名し、その変更した部分に押印する必要があります。これらの訂正の方法に不備があると変更できません(変更が無効となる)ので、変更前の内容のままとなってしまいます。しかも訂正により元の内容が(二重線や押印により)読めず判別不可能になってしまうと、読めなかった箇所は最初から記載がなかったものとされてしまうため注意が必要です。

一方、遺言の大部分を変更したい場合については、元の遺言書の訂正ではできません。遺言の作成者は新たに遺言を作成し、その遺言の中で前に作成した遺言の全部または一部を撤回する旨を内容にすると良いでしょう。

 

3.2.公正証書遺言の撤回について

公正証書遺言は、二人の証人が立ち会ったうえで公証人に遺言の内容を伝え、公証人がそれをもとに遺言者の真意を正確に文章にまとめ、公正証書遺言として作成した後、遺言書原本を公証役場に保管するものでしたね。

自筆証書遺言と異なり手元にあるのは謄本もしくは正本(原本ではない)ですので、手元にある遺言書を破棄したからといって撤回にはなりません。ならば、公証役場へ行って破棄してもらおうと考えるかもしれませんが、公証役場では本人であっても破棄はしてもらえないのです。公正証書遺言の場合は、撤回をしたい場合は新たに遺言書を作成することで撤回することができます。このとき新しく作成する遺言は必ずしも公正証書である必要はなく、自筆証書遺言でも秘密証書遺言でも良いのです。ただし、方式に不備があった場合は撤回が無効となり、古い遺言が有効になってしまいますので、撤回の遺言も専門家のチェックの入った公正証書遺言で行うほうが安心といえますね。

 

3.3秘密証書遺言の撤回について

秘密証書遺言とは、その遺言の内容は公証人を含めた全ての人に内緒にでき、遺言者が自分で作成した遺言書を封入し、封印したうえで、公証役場で手続きを行うことで、遺言内容は内緒のまま遺言があるという事実を公証人に証明してもらえる遺言のことでしたね。

遺言書を封印してしまっている以上、軽微な変更であっても秘密証書遺言自体を秘密証書遺言として訂正することはできませんが、封を切ったうえで訂正した遺言が、自筆証書遺言の要件を全て満たしていれば、自筆証書遺言としての効力が認められる可能性はあります。また、遺言全てを撤回したい場合は自筆証書遺言同様、手元にある場合は完全に破棄すれば足ります。別に保管者がおり、返還してくれない場合には、遺言を撤回するという内容の遺言書を作成しておくとよいでしょう。下の画像は約8年前に、私が1回目に作成した遺言です(実物)。その後内容を変更する必要があったので再度作成しました。