家族信託等認知症対策

知っておきたい相続、認知症対策として利用できる公正制度

はじめに

1.今回は、相続、認知症対策として利用できる公正制度について説明していきたいと思います。

まずは、公正制度の定義を簡単にお示ししたうえで、それぞれの制度がどのような特徴があるのかを順次、見ていきましょう!

制度として、公証役場の公証人に依頼し、作成してもらう各種

①公正証書遺言、

②財産管理委任契約、

③任意後見契約、

④尊厳死宣言書、

⑤死後事務委任契約、

が挙げられます。⑥近年民事信託が相続対策に有効な手立ての対策にもなっていますが、民事信託については公正証書が効力要件として規定されていないことと、話題にするとブログ何本分にもなるので別の回でご紹介します。

相続や認知症対策として利用できる公証役場での公正制度の種類とは?

公正証書遺言とは何か?

公正証書遺言とは、公証人に遺言の内容を伝え、公証人がそれをもとに遺言者の真意を正確に文章にまとめ、公正証書遺言として作成するものです。

財産管理委任契約とは何か?

財産管理委任契約とは、任意代理契約とも呼ばれ、自らの財産や生活上の事務の一部もしくは全部について具体的な管理内容を取り決めたうえで代理人を選ぶ契約のことです。

任意後見契約とは何か?

任意後見契約 とは、将来、認知症などの原因により、判断能力が低下した場合に備えて、あらかじめ信頼できる人に財産管理・契約締結をお願いするための後見人になってもらうという契約のことです。

尊厳死宣言書とは何か?

尊厳死宣言書 とは、将来自らが不治の病気でかつ末期状態になったときに、ただ亡くなるまでの期間を引き延ばすに過ぎない延命措置はせず、人間としての尊厳を保ったまま死を迎えたいという意思を表示するための宣言書のことです。

死後事務委任契約とは何か?

死後事務委任契約 とは自らが亡くなった際に生じる、様々な事務手続きについて、あらかじめ誰かにお願いしておく契約です。

  1. それでは、これらの制度についての特徴を詳しく見ていきましょう。

それぞれの公正証書の特徴は?メリットデメリットは?

公正証書遺言の特徴

①公正証書遺言の特徴

公証人は法律の専門家ですので、どのような遺言にしたらいいか迷いがある場合も公証人が親身になって相談を受けながら、必要な助言をしたりして、遺言者にとって最善と思われる遺言書を作成してくれるというメリットがあります。また、複雑な内容であっても法律上の問題をクリアした状態で遺言を作成できるため、方式の不備で遺言が無効になるおそれもないことから、公正証書遺言は、自筆証書遺言と比べて、安全確実な遺言方法であるといえます。

公正証書遺言は、家庭裁判所で検認の手続を経る必要がないので、相続が開始された後、速やかに遺言の内容を実現することができます。また、公証役場に原本が保管されることから遺言書が破棄・隠匿・改ざんされないというメリットもあります。

このように公正証書遺言では、遺言内容の確実性が増し、無効となることが少ないのが特徴です。ここで、「無効となることが少ない」、と書いたのは、いわゆる「遺留分」を持つ相続人から遺留分減殺を請求された場合、遺言よりも遺留分が優先されるためです(民法902条1項)。遺留分というのはいわゆる配偶者や子供、(子供がいない場合は)親など、法律で相続人と定められている人が一定の割合の相続分を請求できる相続上の権利です。

(例えば妻と子供が一人いる方が、『愛人に全額遺産を相続させる』との公正証書遺言をした場合、子供と妻はそれぞれ4分の1の財産を遺留分として請求することができます。その場合、公正証書を作成していたとしても全財産の半分は遺留分として妻と子供に渡ってしまうことがあるのです。なお、妻子が遺留分を請求しなければ遺言通りの相続となります。)

 

公正証書遺言の特徴

②財産管理委任契約の特徴

委任する本人の判断能力が減退していなくても利用できるという点が特徴です。この点で、判断能力の減退の場合のみ利用できる成年後見制度や任意後見契約とは違います。また、財産を管理してもらう開始の時期や、管理の内容の範囲などを自由に決めることができること、後から判断能力が減退したとしてもこの契約は当然には終了しないことや、特約を設定すれば死後の処理をお願いすることも可能であるというメリットがあります。

ただし、③の任意後見契約と異なり財産管理人としての登記もされないこと、成年後見制度のような取消権がないこと、任意後見制度では任意後見監督人という委任者のチェックをする人が設けられているけれど、そのような公的な監督者が居ないことから、チェックを行うことができないというデメリットがあります。

このように財産管理委任契約は、後々公的なチェックが入らないことから、契約時点でその対象となる財産やそれについての代理権の範囲、報酬や解除条件などについて細かく取り決めをしておく必要があります。あらかじめ契約の内容を文書に残しておくことをしなかった場合、年月が経つうちに契約の細かい内容がわからなくなってしまい、トラブルに発展することがあるからです。また、契約書を作成したとしても、震災その他の天変地異などによる紛失のリスクや、第三者による契約書の改ざんのリスクも否定できません。

必ずしも公正証書を作成する必要がない財産管理委任契約ですが、原本が公証役場で保管され、上記のトラブルやリスクがなくなる公正証書として作成しておいたほうが安心です。

なお、実務ではこの財産管理契約と、③の任意後見契約を併せて作成されることが多いです。

任意後見契約の特徴

③任意後見契約 の特徴

任意後見契約では、契約当事者同士でどのような事務を依頼するかは自由に決めることができますが、その事務内容は本人の財産管理に関する法律行為と介護サービス締結などの療養看護に関する事務や法律行為と、その登記申請等に限定されています。

後見人に資格は必要なく専門家である必要がないため家族や友人などにお願いできる点も特徴の一つです(未成年者・破産者など不適格者は不可)。

なお、ペットの世話など上記の法律行為以外のことを頼みたい場合は、任意後見契約に加えて準委任契約を結び、任意後見契約が発効した後も準委任契約が終了しない旨を定めておくことでお願いすることができます。

 

尊厳死宣言書の特徴

④尊厳死宣言書 の特徴

身内が重篤かつ回復困難な状態に陥った場合、愛する人であればあるほど延命治療を続けるべきかやめたほうがいいのか悩み、選んだ後もその選択が本人の意思と合っていたのか、間違っていたのではないかと、自責の念に悩み続けることになります。将来自らが不治の病気でかつ末期状態になったときに、愛する身内を苦しめないためにも、あらかじめ自己の意思をはっきりと示しておくことが大切だと考えることができます。また、ご自身で意思を伝えられない状態になってから伝えられず、後悔することを防ぐことができます。

このように、医療の発達した現在では、自分のため、愛する家族のためにも尊厳死宣言書を作成することは大変有意義なことだといえます。

ただし、宣言書を作成しても家族が延命措置の停止に反対した場合は、医師はそれを無視することはできませんので、宣言書を作成する前に尊厳死について家族と話し合い、同意を得たうえで家族の同意についても宣言書に記載することが大切です。

死後事務委任契約の特徴

  1. 死後事務委任契約 の特徴

契約の性質上、当然のことながらこの契約が発効するときには本人は亡くなっていますので、委任の内容を変更することはできません。そのため、死後に必要となりそうな事項についてはなるべく広く委任をしておき、死後の手続に支障が起こらないようにすることが重要です。

①医療費・老人ホームなどの施設利用料の支払いに関する事務、

②親族への連絡に関する事務、

③行政官庁等への諸届(死亡届・戸籍・健康保険・年金の資格抹消申請)

④葬儀・永代供養等に関する事務、

⑤家財道具・生活用品等の遺品の整理や処分に関する事務、

⑥公共サービス(電気ガス水道)等の名義変更・解約・清算手続きに関する事務、

⑦保有するパソコン内の内部情報の消去、インターネット上のホームページやブログ、SNSなどでの死亡の告知や、アカウント閉鎖などの処理に関する事務、

などが主に想定されます。
 ただ、財産の承継をおこなえる遺言と異なり、死後事務委任契約では財産の承継はすることができません。逆に、遺言だけを残しても、死後事務は任せることはできません。

このため、財産の承継と死後の事務手続きの両方を任せる場合は「遺言公正証書」と「死後事務委任契約公正証書」の2つの公正証書をセットで残しておく必要があります。

近年、自分の死後の面倒を子供に見てもらうのは申し訳ない、又は身寄りがいないので確実に死後のあと始末をしておける人に依頼しておきたいという要望からニーズが高まっています。

 

あとがき

以上が、相続、認知証対策として、公証役場で作成することができる公正証書の種類と特徴でした。元気なうちに決めれるところは決めておくことが重要ですね。