皆様こんにちは!
今回は、特別方式の遺言について説明していきたいと思います。
目次
遺言の種類(普通方式・特別方式)について
皆さん、『遺言』という言葉から、どんな光景や文書を思い浮かべますか? 法律で遺言は、大きく分けて「普通方式」と「特別方式」の2種類に分けられます。それぞれ簡単に見ていきましょう。遺言の普通方式とは
遺言の普通方式は、死期がまだ差し迫っていない段階で、万が一の事故や急病、もしくは、将来の認知症の発症に備えて時間を掛けて作成できるもので、以下のものがあります。自筆遺言と公正証書遺言は有名ですね!自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、財産目録を除く全文を、自筆で書いた遺言書のこと(民法第968条)で、日付の記入を必ず行うこと、最後に署名捺印を行うことで完成する遺言です。公正証書遺言
公正証書遺言とは、公証人に遺言の内容を伝え、公証人がそれをもとに遺言者の真意を正 確に文章にまとめ、公正証書遺言として作成するものです。秘密証書遺言
秘密証書遺言とは、その遺言の内容を自分以外の全ての人に内緒にしたうえで、「遺言が存在している」ということを公証人に証明してもらえる遺言のことです。つまり、遺言の内容はわからないけど偽造されていない遺言が存在していることがわかります。秘密証書遺言はあまり知られてませんが、遺言の内容は代筆でもいい(ただし最後に遺言者が署名、押印をする必要があり)ことが最大のメリットで用途によっては大変有用です。遺言の特別方式とは
遺言の特別方式とは、何らかの理由で死期がすぐそこに差し迫ってしまった緊急の場合に遺言を残すための方法のことです。民法上は4つの特別の場面を想定されて規定されています。 ・危急時(ききゅうじ)遺言 2つ (一般危急時遺言・難船危急時遺言) ・隔絶地遺言 2つ (一般隔絶地遺言・船舶隔絶地遺言)です。なかなか聞かないワードですね。 「危急時」というのは病気や事故などによる怪我、もしくは船や飛行機の遭難・事故などで、生命の危機が差し迫った状態のことです。「隔絶地」というのは、伝染病で隔離された場合や、航海中等で一般社会との交通が隔てられた場所、を意味します。それぞれどのようなものなのか見ていきましょう。一般危急時遺言(民法976条、以下かっこ書き内は民法)
一般危急時遺言は、病気や事故による怪我などによって、生命の危機が差し迫った状態で作成する遺言のことです。この場合証人が3人必要となります。証人にも法律上欠格者が定めれれており、推定相続人(相続する可能性がある人)や一定の近親者等は証人となれないことに注意しなければいけません。
作成方法は
①遺言者本人が、証人のうちの一人に対して口頭で遺言内容を伝えて
②その内容を書いてもらい、口授を受けた証人が筆記した内容を、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、または閲覧させる。
③各証人が筆記の正確なことを承認した後、遺言書に署名し印を押すことで有効な遺言として成立します。遺言者の署名押印は必要ではなく、日付の記載も要件ではありません。
また、一般危急時遺言の場合、20日以内に遺言を書いた人の住所地の家庭裁判所で「確認」の審判を申し立てる必要があります。これはいわゆる「検認」とは別に必要となり、遺言執行の際には、検認も必要です。
難船遭難者遺言(船舶危急時遺言)(979条)
難船危急時遺言とは、船や飛行機の遭難や事故などで、生命の危機が差し迫った状態で作成する遺言のことです。
こちらも遺言者本人が遺言書を書くことができない状態にある場合は、証人のうちの一人に対して口頭で遺言を伝えてその内容を書いてもらい、他の証人が署名を行うことで有効な遺言として成立しますが、上記の一般危急時遺言に比べてより緊急性が高いので、証人の人数は1人減って2人で良いとされています。
難船危急時遺言も、遺言を書いた人の住所地の家庭裁判所で確認の手続を行う必要がありますが「遅滞なく」という定めがあるのみで、一般危急時遺言の場合のように20日以内という期間の設定はありません。上記と同様、執行の際にいわゆる検認も必要です。
家庭裁判所による確認の手続について
ここで、家庭裁判所での行われる確認の手続(審判)について説明をしておきましょう。家庭裁判所で行われる確認の審判手続きというのは、対象の遺言が遺言者の意思によるものであるということを確認するための手続のことです。危急時遺言の際に必要です。
家庭裁判所での確認手続きの概要
危急時遺言については、証人の1人又は利害関係人から、家庭裁判所に請求し、確認を得なければ効力が認められないとされています。 そして、家庭裁判所は、この遺言が遺言者の真意から出たものであるという心証を得なければ「確認」できないとされています(民法976条4項・5項)。
確認手続きに必要な書類について
それでは、次に確認手続きの請求の際に必要な書類を押さえておきましょう。
①遺言確認裁判申立書(800円の収入印紙と郵便切手各裁判所に要確認)
②遺言書の写し
③診断書(遺言者が生存の場合)
④遺言者の戸籍謄本
⑤申立人(証人の一人または推定相続人などの利害関係者)の戸籍謄本
⑥証人の戸籍謄本です。
危急時遺言の効果
この確認手続の審判を経て、危急時遺言を残した遺言者が亡くなった場合には、家庭裁判所で検認を行ったのち、遺言内容の執行がなされます。
なお、危急時遺言をした後、差し迫ったと思われていた命の危機を脱して、普通方式の遺言を作成できる状態になってから6か月後も生存していた場合は、この時に作成された危急時遺言は無効となります(民法983条)
隔絶地遺言について
隔絶地遺言とは伝染病などにより行政上の隔離を余儀なくされている人や、船旅や、船舶にて長期間の漁その他交易等の仕事をしている人などが作成する遺言のことで、生命の危機が差し迫っているとまでは言えないが交通事情等により普通方式の遺言は作成できない状態であるときに作成されます。
危急時遺言と違って命の危機が差し迫っているとまでは言えないため、本人が作成する必要があり、そのことから「真意」を確認するための家庭裁判所の確認は必要ありません。もちろん、検認は必要です。
一般隔絶地遺言(977条)
一般隔絶地遺言とは、伝染病その他の理由により広く行政処分で交通を断たれた人ができる遺言のことです。伝染病の患者本人だけでなく、家族や付添人などで同じく交通を遮断された隔絶地にいる場合、地震等の災害により事実上外部と遮断されている人、また、刑務所に収監中の人なども対象だと解釈されています。口頭ですることはできません。遺言の作成には警察官1人と証人1人以上の立ち合いが必要となります。そして遺言者・作成者(筆者)・警察官・証人は遺言書に署名・押印する必要があります。
船舶隔絶地遺言(978条)
船舶隔絶地遺言は、船舶内にいる人ができる遺言のことです。
難船危急時遺言と異なり、飛行機にて移動中の場合については短時間で到着することから「隔絶地」とはいえず、よって航空機内での隔絶地遺言は認められません。
船長または事務員1人及び証人2人以上の立ち合いが必要となります。そして遺言者・作成者(筆者、)立会人、証人は遺言書に署名押印する必要があります。
隔絶地遺言の効果
隔絶地遺言を残した遺言者が亡くなった場合には、遺言者が作成しているため家庭裁判所
の確認は必要ありませんが、家庭裁判所で検認を行ったのち、遺言内容の執行がなされま
す。
なお、隔絶地遺言についても危急時遺言と同様、遺言をした後、差し迫ったと思われてい
た命の危機を脱して、普通方式の遺言を作成できる状態になってから6か月後も生存して
いた場合は、この時に作成された隔絶地遺言は無効となります(民法983条)。
おわりに
今回は特別な場合に作成する、特別方式の遺言について説明しました。
普通方式も特別方式も、公正証書以外の遺言については家庭裁判所での検認が必
要となり、遺言の執行に時間が掛かります。
近年の相続法の改正により、相続貯金の一部払い戻し制度が施行されたとはい
え、戸籍の収集や銀行での手続きをする時間を考えるとやはり一定の時間が必要
です。その間に発生する葬儀費用などは財産の相続が完了するまで、身内が負担
することになってしまいます。
2020年は新型コロナウィルスが流行し、現在も世界的に流行しています。
これからの人生何が起こるか誰にもわかりません。時間を掛けることができる元
気なうちに、ご自身の財産の遺し方について考えておくことが重要ではないでしょうか。